1. はじめに

北越高校のバス事故についてマスコミを賑わしています。この問題を考えるとき、事故そのものの原因や責任を見るような分析は多く見られる気がします。ただ、わたしは新潟県での進学指導の経験も長かったので、その背景にある新潟県の高校事情にも目を向ける必要があると感じいます。

この記事では、新潟県における公立高校と私立高校の役割の違いを整理したうえで、私立高校にとってスポーツがどのような意味を持っているのかを考えます。

そのうえで、北越高校のスポーツ強化のあり方や、ソフトテニスのような競技で県外遠征が増えやすい構造を見ていきます。

北越高校のバス事故に関心の高い方たちに、違った視点を与えられればと思っています。

2. 公立高校と私立高校の役割の違い

新潟県では公立高校の役割が大きい

新潟県の高校事情を考えるうえで、まず押さえておきたいのは、公立高校の役割が非常に大きいということです。

新潟県では長らく学区制が取られており、各地域にトップ校と呼ばれる公立の進学校が配置されてきました。代表的な学校としては、新潟高校、長岡高校、高田高校などがあります。

公立高校が幅広い進路ニーズを拾ってきた

現在では学区制は廃止されていますが、その名残は今も残っています。新潟県の公立高校は、大学進学を目指す生徒だけを受け止めてきたわけではありません。

地域ごとに、トップ校、準トップ校、職業高校、そして学習面で困難を抱える生徒を受け止める普通科高校といった形で、いわば四段構えで配置されてきました。つまり、大学進学、職業教育、基礎的な学び直しまで、公立高校がかなり広い範囲を担ってきたということです。

この点は、首都圏周辺とはかなり事情が違います。たとえば埼玉などでは、東京の高校に通う、あるいは県境を越えて別の県の高校に通うといった選択も珍しくありません。

一方で新潟県では、地理的にも制度的にも、地域内の公立高校を軸に進路を考える傾向が強かったといえます。

私立高校が独自性を出しにくい構造

公立高校がここまで幅広い進路ニーズを拾っていると、私立高校は独自性を出しにくくなります。

大学進学を目指す生徒は公立の進学校へ行く。職業教育を受けたい生徒も公立の職業高校へ行く。学力面で不安のある生徒を受け止める公立高校もある。

そうなると、私立高校が「公立とは違う学校」として存在感を出すには、別の特色が必要になります。

新潟県の私立高校が担ってきた二つの役割

その中で、新潟県の私立高校が担ってきた大きな役割は、主に二つに絞られます。

  1. スポーツを本格的にやりたい生徒の受け皿になること

  2. 公立高校入試で不合格になった生徒の進学先になること

新潟県では、公立高校を基本的に一校しか受験できません。そのため、公立高校入試は一発勝負になりやすく、不合格になった場合には私立高校へ進学するという流れが生まれます。

このように見ると、新潟県の私立高校は、公立高校と横並びで自由に選ばれる学校というよりも、スポーツで特色を出す学校であり、同時に公立高校入試を補完する学校でもあったといえます。また不合格生徒の受け皿になるにしてもスポーツの実績などで知名度があるかないかで生徒保護者の選択肢になるかならないかが決まりますので、スポーツの重要性は私立高校の経営を考える上で非常に大きなウエイトを占めることになるのです。

ここを押さえておくと、新潟県の私立高校がなぜスポーツに力を入れるのか、その背景が見えやすくなります。

3. 北越高校のスポーツ戦略

メジャー競技にはすでに伝統校がある

新潟県の私立高校にとってスポーツが重要だとしても、すべての学校が同じ競技で同じように勝負できるわけではありません。

たとえば野球であれば新潟明訓や日本文理、サッカーであれば帝京長岡のように、すでに県内外で知られた強豪校・伝統校があります。

こうしたメジャー競技では、長年の実績、指導体制、卒業生のつながり、学校の知名度などが積み重なっています。そのため、後発の学校が同じ土俵で一気に存在感を出すのは簡単ではありません。

北越高校は追い上げる側の私立高校

その中で北越高校の立ち位置は、メジャー競技の絶対的な伝統校に対して、ニッチな分野に活路を見出す二番手校として見ることができます。

もちろん、北越高校にもさまざまな競技で実績があります。ただ、新潟県内の私立高校スポーツ全体を見たときには、すでに強いブランドを持っている学校を追いかけながら、別の形で存在感を出そうとしてきた学校、という位置づけになると思います。

そこで重要になるのが、どの競技に力を入れるかという選択です。

ニッチ競技を総取りする戦略

北越高校のスポーツ強化を考えると、野球やサッカーのようなメジャー競技だけで勝負するのではなく、ややマイナーでありながら、一定の競技人口がある競技に力を入れているように見えます。

これは、北越高校の立ち位置を考えると戦略としてはかなり妥当です。

あまりに競技人口が多い競技では、すでに伝統校が強い。逆に、競技人口が少なすぎる競技では、生徒を集めることも、指導体制を維持することも難しい。

その中間にある競技、つまり「そこそこ競技人口があり、全国大会も狙えるが、県内で本格的に強化している学校は限られる競技」に力を入れることで、学校の特色を出しやすくなります。

ソフトテニスも、この文脈で考えられる競技の一つです。ソフトテニスは中学校ではほぼすべてのテニス部がソフトテニスを指導している一方で、高校になると硬球のテニスへと移行します。高校になってもソフトテニスをやる環境というのは多くありません。

北越高校がソフトテニスに力を入れていた背景には、単に一つの部活動が熱心だったというだけではなく、私立高校としての特色づくり、学校としてのスポーツ戦略があったと見るべきです。

4. 県外遠征が増える構造

ニッチ競技の総取り戦略は、長距離遠征と結びつく

北越高校のように、ややマイナーでありながら一定の競技人口がある競技に力を入れることは、学校の特色を出すうえでは有効です。

しかし、このニッチ競技の総取り戦略には、避けにくい問題があります。県内の対戦相手が限られることです。

野球やサッカーのようなメジャー競技であれば、県内にも多くの学校があります。しかし、ニッチ競技では本格的に強化している学校が限られます。そうなると、同じ相手とばかり練習試合をするわけにもいかず、より強い相手を求めて県外へ出る必要が出てきます。

ソフトテニスでも県外遠征が増えやすい

ソフトテニスも、この構造に当てはまる競技だと思います。

そのため、ソフトテニスで全国を目指す学校は、県内だけで十分な対戦経験を積むことが難しくなります。結果として、県外の学校や大会に出ていく機会が増えていきます。

遠征は学校の管理リスクを増やす

さらに新潟県は広く、県内移動だけでも時間がかかります。県外遠征となれば、移動距離も負担もさらに大きくなります。

遠征には、交通費や宿泊費といった経済的負担だけでなく、引率、移動計画、車両手配、安全確認といった学校側の運営負担も伴います。

つまり、県外遠征が増えるということは、学校が管理しなければならないリスクも増えるということです。

今回の北越高校のバス事故も、事故そのものの原因や責任とは別に、こうした遠征構造の中で考える必要があります。ニッチ競技で全国を目指すほど、県外遠征が増え、その分だけ学校の安全管理の重みも増していくからです。

5. スポーツを学校戦略にするなら、安全管理も学校の責任になる

内田良先生の指摘

部活動の事故を考えるうえで、まず押さえておきたいのが、部活動の安全管理は制度的に弱くなりやすいという問題です。

名古屋大学大学院の内田良教授がこの問題について発言しています。教授は、部活動が学校の中で「自主的な活動」と位置づけられているため、さまざまなことが顧問任せになり、安全面の管理体制が緩くなりやすいと指摘しています。また、部活動の移動についても、国としての具体的な指針はなく、学校や自治体ごとの対応に委ねられている部分が大きいと報じられています。

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これは、全国の部活動全体に関わる大きな問題です。

しかし私立高校のスポーツは「自主活動」ではなく経営戦略そのもの

ただし、新潟県の私立高校について考えると、「部活動は自主的な活動だから」という説明だけでは足りないと思います。

ここまで見てきたように、新潟県では公立高校の役割が大きく、私立高校は独自性を出すためにスポーツへ力を入れてきました。つまり、私立高校にとってスポーツは、単なる生徒の自主活動ではなく、学校の特色づくりや生徒募集にも関わる重要な戦略事項になっています。

実際、私立高校では、どの競技に力を入れるかを学校として判断し、その方針に沿って有力な指導者を招くこともあります。私が関わってきた柔道の世界でも、公立高校で長く指導してきた先生が、私立高校の監督として招聘された例がありました。

これは、スポーツが私立学校の経営戦略として扱われていることの証左です。

安全管理も学校戦略の一部でなければならない

私はこの北越高校のソフトテニス部の実態や事故の詳細を知る立場にありませんが、スポーツを学校の特色として打ち出すのであれば、安全管理もまた学校の責任として考えなければならないと考えています。

強いチームをつくる。全国大会を目指す。県外遠征を組む。そうした活動が学校の魅力や知名度につながっているのであれば、その裏側にある移動、引率、車両手配、保護者負担、安全確認も、学校がきちんと設計すべきものです。

今回の北越高校のバス事故は、単に一つの遠征中に起きた事故としてだけでなく、地方私立高校がスポーツを特色にしていく中で、安全管理をどこまで学校の責任として引き受けるのか、それを学校経営の中でどう位置づけるのか、という問題として考える必要があります。

スポーツを学校戦略にするなら、安全管理も学校戦略の一部でなければならない。

そこに、今回の事故の重さがあると思います。

6. ソフトテニス文化を衰退させてはいけない

今回の事故は、北越高校だけの問題にとどまらない可能性があります。

ソフトテニスは、野球やサッカーのようなメジャー競技と比べれば、競技人口や強化校が限られるニッチな競技です。その中で北越高校は、新潟県内でソフトテニスを本格的に強化してきた学校の一つでした。ある種の寡占状態だったと言えるはずです。

だからこそ、今回の事故が新潟県のソフトテニス界に与える影響は、決して小さくないと予想しています。

私は長年、柔道の指導に関わってきました。かつて柔道の不祥事が大きく報道されたとき、多くの柔道クラブや柔道部が活動を縮小したり、消滅していったりする場面を見てきました。そのとき、柔道という文化そのものが失われていくのではないかという危機感を持ちました。

今回の事故も、痛ましい出来事として真剣に反省されるべきです。責任の所在や安全管理の問題は、曖昧にしてはいけません。

一方で、この事故をきっかけに、新潟県のソフトテニスという文化そのものが衰退してしまうことも避けなければならないと思います。

大切なのは、事故をなかったことにすることではありません。責任ある検証を行い、再発防止の仕組みを整えたうえで、子どもたちが安心して競技に取り組める環境を守ることです。

関係者の皆様には、新潟県のソフトテニス文化を守るためにも、責任ある行動を取っていただきたいと考えています。

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